タイ語には、
「つづりには書くけれども読まない文字」
というものが存在します。
例えば、今回タイトルに掲げた(เบียร์)などです。
今回は、タイ語の「読まない文字」というものについて、お話ししていきます。
(เบียร์)はタイ語で何と読むか
(เบียร์)は「ビア」と読み、タイ語で「ビール」という意味ですが、
じつは、ラストの文字は、
あってもなくても、
読み方に変わりはありません。
(เบียร์)と書いても、
あるいは、ラストの文字を省いて
(เบีย)と書いても、
どちらも、読みは「ビア」なのです。
(เบียร์)は、ラストに(ร)rの文字を書いて、
その上に、数字の6のような記号を付けています。
この記号は「ガラン」と言って、
「下の文字を読まない」という役割があります。
つまり、(เบียร์)の例で言うと、(ร์)の部分を読まないので、
読む時は(เบีย・ビア)の部分だけ読む、ということになります。
(ร์)を書く目的
では、なぜタイ語には、このような面倒な仕組みがあるのか、
というのが今回のテーマです。
これは、結論を先に言うと、、
という目的があります。
たとえば、「ビール」は、英語では[biar]という発音になり、
ラストに巻き舌の[r]の音が入っています。
しかし、これをタイ語に輸入する際、タイ語には、「音節末のr」という音が無いので、
自動的に、ラストの[r]が消えて、「ビア」の音だけになります。
しかし、ここで、
その音のままに(เบีย・ビア)と書いてしまうと・・・
元が外来語の「beer」であったことが分からなくなってしまいます。
そこで、読まない記号の「ガラン(ร์)」が登場するわけです
ガランは外来語につく
つまり、タイ語では、
このように、、
外来語をタイ語に輸入した際は、外来語のつづりをそのままタイ文字で書く
2、
ただし、タイ語には、音節末に発音しない音が多い
3、
その際は、「読まないけれどもつづりはある」という意味を込めて、「ガラン」の記号を付ける(ร์)
4、
これによって、「元は外来語だった」ことが分かる
…というシステムになっているわけです。
この例は、枚挙にいとまがなく、
英語由来の「-ar」や「-er」など、語末に[r]のある単語は、
ほぼほぼ(ร์)になっている、と言っても過言ではありません。
元が外来語だと分かる
逆に言うと、、
タイ語の文章を読んでいて、初めて見た単語に(ร์)がついていた時は、
「ああ、元は外来語なんだな」
と、推理することができる、というわけです。
この他にも、たとえば、、
LINEは、タイ語では「ไลน์」と書きますが、ラストのNは読みません。
「ラーイ」と発音します。
しかし、「ラーイ」だけだと、文で書いたときに何のことか分からないので、
書く時には「ไลน์」と書いて、元が外来語の「LINE」であったことが分かるようにしてある、ということです。
仏教用語にもガランが付いている
また、タイ語の語彙には、仏教用語が多く入っていますが、
仏教用語の多くは、古代インドのサンスクリット語やパーリ語が元になって、それをタイ語式に発音しています。
このため、仏教用語にも、ガランが付いていることが多いです。
例えば、
バンコクの有名なお寺の「ワットポー」も、
タイ文字では「วัดโพธิ์」となります。
これもつまり、元は仏教用語の「โพธิ」という言葉があり、タイ語式に読むと「ポー」になるので、
ガランを付けて、「วัดโพธิ์」と書いている、ということです。
タイ語の曜日の名前
あとは、意外に身近なところで、タイ語の「曜日の名前」にも、ガランが付きます。
อังคาร アンカーン 火
พุธ プット 水
พฤหัส パルハット 木
ศุกร์ スック 金
เสาร์ サオ 土
อาทิตย์ アーティット 日
…などなど、見ての通り、最後の文字にガランが付いていますよね。
これは、なぜかというと、、
まず、タイ語の曜日の名前は、「天体」の名前と対応していて、
例えば、火曜⇒火星の日 水曜⇒水星の日という命名になっています。
そして、こうした天体の名前は、古代インドの言葉が語源になっているため、
これまでと同様、インドのつづりをそのままタイ文字で表記し、
そして、読まない文字にガランを付けている、というわけです。
なので、ガランは主に、、
と、覚えておきましょう。
日本語のカタカナのようなもの
この「ガラン」のシステムを見て、「ややこしい!」と感じるかもしれませんが、、
じつは、我々日本人には、「ガラン」の役割を一発で理解できる、日本語特有の発想法があります。
それは、、
という考え方です。
つまり、ガランは、
日本語のカタカナと同様、、
外来語を表示するためのツールである、
という発想です。
例えば、日本語で、
「びいるのむ」
と書いてあったら、一瞬何のことだか分かりませんよね。
でも、カタカナを使って、
「ビールのむ」と書いてあったら、
それが外来語の[beer]だとすぐに分かるわけです。
「外来語が分かる」
↑
これは、カタカナの最大の役割の1つです。
それと同じように、タイ語では、外来語にガランを付いているために、
どれがタイ語で、どれが外来語かが、
分かりやすくなっているのです。
言い換えると、、
外来語であることを判別できるように、
タイ語では、ガランを見れば、
外来語を判別できる
…というわけです。
「外来語の標識」
↑
このように考えると、「ガラン」もなかなかユニークな記号だと思いませんか?
今回は、タイ文字の読まない記号、「ガラン」のお話しでした。
ぜひ、参考にしてみてくださいね!