タイでBNK48が大人気となっている理由として、前回の記事では、
「推しの概念が形成されたこと」
について、ご紹介しました。
本日は第2回として、
「タイにあって日本にないものがコンセプトになっている」
というポイントについて、お話をしていきたいと思います。
「日本にあってタイにないもの」がコンセプト
BNK48は、新曲やPVを公開する際、
「日本にあってタイにないものを取り入れる」
という工夫がなされています。
これに関して、最もわかりやすい例で言えば、「クリスマスソング」が挙げられます。
・タイには雪が降らない
・タイにはホワイトクリスマスがない
…など、このたび発表された、「あなたとクリスマスイブ」では、これらのポイントが、PVにふんだんに取り入られています。
これは、とりもなおさず、大多数のタイ人が抱いている、「日本に対するあこがれ」を可視化する、という効果があります。
これにより、BNK48は、
「これまでのタイにはない、新しい日本風アイドル」
というイメージを、獲得し続けることに、成功しています。
「努力」の概念はタイになかった?
さて、「日本にあってタイにないもの」というテーマに関して、私が最も注目しているのは…
「頑張る・努力する」
という概念です。
実は、「頑張る・努力する」という概念も、これまでのタイにはなかったものなんです。
例えば、
BNKの3rdシングルとなった『初日』では、
「夢は、汗と努力の対価なの」
など、日本の少年漫画のようなフレーズが、ふんだんに盛りこまれています。
また、その次に発表された、
『River』もそうです。
これも、
というコンセプトの歌詞になっています。
つまり、いずれの曲も、「努力」が前面に出ている、ということです。
オーンの苦労話
なおかつ、Riverでセンターを務めている「オーン」に至っては、
「幼少期に、壮絶な苦労をした」
というエピソードまで、紹介されています。
つまり、Riverは、PV全体で、
「オーンの汗と涙と努力の物語」のような演出がなされているんです。

『River』でセンターを務めた「オーン」
これらの演出が、現代のタイ人に、大ヒットしているのは、とりもなおさず…
「努力する・頑張る」などの概念が、これまでのタイの歌謡界では「一般的ではなかった」ことを、如実に表しています。
「努力」はタイ語で何と言う?
一応、「努力する・頑張る」に当てられた、「訳語」はありました。
上記の「初日」や「River」などでも使われている、「パヤヤーム」という単語です。
この「パヤヤーム」という言葉は一応、「努力する・頑張る」という訳語になっていますが、これはあくまでも、
「あえて意味が近い言葉を、タイ語の中で探すと、パヤヤームが最も近いかな?」
という程度のものです。
実際のところ、タイの一般庶民の生活で、「パヤヤーム」を使う場面というのは…
「できるかどうか分かりませんけど、とりあえず、やってみます」
というニュアンスであることが多く、
日本語の「努力」に含まれているような、「自分の限界に挑戦していく」というニュアンスはなかったんです。
日本発の「努力と汗」という価値観
こうした現状を、完全に逆手にとったのが、
「初日」や「RIVER」などで演出されている、「日本風の努力」の世界観です。
これらの曲では、「パヤヤーム」という言葉が歌詞に使われ、そこでの意味は、
「努力は、人を裏切らない」という、日本の価値観です。
つまり、
これまでは、タイの「パヤヤーム」という言葉には、「とりあえずやってみます」というような、非常に消極的なニュアンスしかなかったのに対し…
BNK48の曲では、「パヤヤーム」という言葉に、「日本風の努力」というニュアンスを盛り込んでいる、ということです。
現に、「ガンバッテ」という言葉は、タイ人のファン同士の間で、現在普通に使用されています。
これはつまり、
タイ語の「パヤヤーム」と、日本語の「頑張る」は、まるで違う、ということの証左でもあります。

『初日』のPVでセンターに大抜擢された、「ヌーイ」
近年は、タイの社会が近代化し、若者たちの発想も、非常に先進国的になってきています。
こうした社会状況から、「努力すれば夢が叶う」という、新しい「パヤヤーム」の概念が、タイの若者に「受けて」いるわけです。
過去の苦労話もある
また、先程、オーンの苦労話のエピソードをご紹介しましたが、
これまでのタイでは、こういう「汗と努力を前面に出したアイドル」というのは、考えられませんでした。
アイドルは、手の届かない、雲の上のような存在であり、
「生まれつき美人で、幸運な人」という位置付けだったからです。
そこには、「努力」はありません。
もちろん、陰の努力はしていたかもしれませんが、
少なくとも、「努力は素晴らしいこと」という概念を、一般庶民に伝える、というアイドルはいませんでした。
「努力してもしょうがない」という土壌
つまり、かつてのタイでは、
彼らは努力はしていないし、私たち庶民が努力をしても、しょうがない」
という固定観念があった…ということです。
そうした既存のアイドルが、仮に、「努力すれば夢は叶う」なんて言ってみたところで、
「説得力」がなかったんです。
「どうせあなた、生まれつき美人で、チヤホヤされてたんでしょ?」ってなもんです。
しかし、BNK48は、こうしたタイ人の一般庶民の価値観を、完全に逆手にとり、
あえて、「努力」を前面に押し出すことで、絶大な支持を得ているわけです。
タイ人に努力を教えたBNK
ですので、前回、
BNKは、タイ人に「推し」の概念を初めて普及させた、という話をしましたが、
今回の「努力」も同様です。
と、言うことができます。
日系企業の日本人管理者が、さんざん「頑張れ」と言って伝えることができなかった概念を、現在タイ人は、BNKの歌によって、学んでいるわけです。
まとめ
いかがでしたか。
今回は、BNK48が、タイで大人気を博している理由の2つ目として…
●「努力する・がんばる」という概念を、前面に出していること
について、お話をしてきました。
「私は、血のにじむような努力をして、新曲の選抜を勝ち取り、センターの座を勝ち取ったのよ!」
というストーリーは、これまでのタイのアイドルに、無かったものです。
BNKの、こうした「日本風の努力」の概念が、現代のタイ人の若者に受けています。
つまり、今回の内容を、一言でまとめると…
「日本発のアイドルグループであるBNK48は、タイ人に夢や希望を与えている」
ってことになります。
(つづく)
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