タイ人から、辛いタイ料理を勧められ、「食べれません」と答える時、タイ語で何と言うかご存知ですか?
タイ語には、「可能」を表す表現が、いくつかあります。
今回は、その中でも最も使用頻度の高い、「ダイ」と「ペン」、2つの可能表現について、ご紹介していきます。
タイ語の「可能」の表現
タイ語の、会話入門書などを読むと…
・否定の時は、「〇〇マイダイ」と言います。
…というようなことが、書いてありますよね。
そのため、これを読んだ日本人の旅行者は、「辛いタイ料理は食べれません」と言いたい時に…
「キンマイダイ」
と、答えてしまうのですが、これは、厳密に言うと「間違い」です。
なぜ間違いなのか、ということについて、次にお話ししていきます。
「ได้ダイ」…状況的にできる
まず、「ได้ダイ」は、「状況的にできる」ということを表します。
一方で、次にご紹介する「ペン」は、「能力的にできる」という意味を表し、両者には、大きな違いがあります。
そのため、タイ語で「できません」と言いたいときは…
「状況的にできないのか」それとも「能力的にできないのか」ということを、考えなければならない…ってことなんです。
キンマイダイ(食べれない)
はじめに、「ダイ」を見ていきましょう。
「ダイ」は、「状況的にできる」ということですから、「食べる」を例にとると…
・仲間が3人いて、ケーキが4つあるから、全員このケーキを食べることができる。
・まだ賞味期限前だから、食べることができる。
キンマイダイ(食べれない)
・仲間が3人いて、ケーキが2つしかないから、誰かは、このケーキを食べることができない。
・賞味期限をとっくに過ぎているから、食べることができない。
こういうケースの「できる/できない」の時、タイ語では「ダイ」を使うわけです。
つまり、「何らかの状況や事情」があって…
「食べれる/食べれない」というニュアンスになります。
※なお、「食べれる」という日本語は、「ら抜き言葉」と言われていて、文法的には「食べられる」と書くのが正式なのですが…
このサイトでは、読みやすさと日常口語表現を重視しているため、あえて「食べれる」と表記しています。
タムマイダイ(できない)
理解を深めてもらうために、もう一つ、「タム(する)」という動詞で考えてみましょう。
・製作には5日かかるが、納期は7日先だから、納品できる。
・材料が揃っているので、作れる。
タムマイダイ(できない)
・納期はまだ4日先だが、製作にはどうしても5日かかるので、納品できない。
・生産能力は十分あるが、材料が揃っていないので、作れない。
…というニュアンスになります。
これも、「状況的にできる/できない」ということですよね。
以上が、タイ語の「ダイ」の使い方です。
「เป็นペン」…能力的にできる
では次に、タイ語のもう一つの可能表現である、「เป็นペン」を見てみましょう。
キンマイペン(食べれない)
「ペン」は、「能力的にできる/できない」ということですから、
同じく、「食べる」を例にとると…
・自分はもう、辛いタイ料理に慣れているので、唐辛子3粒のソムタムでも、食べれる。
・インドには何度も行っているので、カレーを手で食べることができる。
キンマイペン
・自分はまだ、辛い料理が苦手なので、辛いソムタムは食べれない。
・インド料理を手で上手く食べれない。
…というようなニュアンスになります。
つまり、「○○マイペン」とは、「それをするための知識や能力がない」ということです。
ですので、冒頭で紹介した、「タイ料理は辛すぎて食べれない」と言いたいときは…
「キンマイダイ」ではなく、「キンマイペン」と言わなければならない…ということです。
タムマイペン(できない)
「できる」も同様です。
・彼は十分に研修を受けたので、NC旋盤を操作できる。
・タイ料理を作れる。
タムマイペン
・彼はまだ入社したてなので、NC旋盤を操作できない。
・タイ料理の作り方を知らない。
…となります。これは、判りやすいですよね。
「知識や能力があるから、できる」
「知識や能力がないから、できない」
というニュアンスになります。
キン・ペッ・マイペン
なお、「目的語」があるときは、キンとペンの間に挟みます。
「เผ็ดペッ(辛いもの)」を例に取ると…
キンマイペン
(食べれない)
↓
キン・ペッ・マイペン
(辛いものを食べれない)
…となります。
タイ人の『キンマイペン』が増えた
さて、今回ご紹介した『キンマイペン』のフレーズで、重要なポイントが1つあります。
それは…
近年のタイの若者は、「キン・ペッ・マイペン(辛いのは食べれません)」というセリフを口にすることが増えた…という点です。
これは、西洋などの諸外国から「間違った」衛生知識・健康知識が大量に輸入されてきたために、
「辛い料理は子供の体に良くない」という風説が蔓延してしまい、子供に辛いタイ料理を食べさせなくなった親が増えたためです。
この風説を、「間違いだ」と言い切れる根拠があります。
「味覚」は遺伝する
アメリカの遺伝子研究機関が、「DNAによって、親から子へ受け継がれる能力」について、遺伝子情報を解析したところによると…
じつは、「味覚」というものは、遺伝することがわかっています。
つまり…
親が辛いものを好きなら、子供も辛いものを食べられる
…ってことです。
でも、これって、当然のことだと思いませんか?
現に、今のタイ人の親の世代までは、小さい頃から、辛いものを食べていたわけです。
だいたい、タイやインドなど、料理の辛い国で、子供が「辛くて食べれない!」なんて言って泣いていたら、生きていけませんよね。
その環境にあるものを普通に食べられるよう、遺伝子には、ちゃんと能力が組み込まれているんです。
「辛いもの好き」の長寿高齢者は多い
また、「辛いものを食べると寿命が縮む」というのも、俗説です。
現に、タイの北部には、毎日激辛の料理を食べ続けて100歳以上の老人が、ゴロゴロいます。
つまり、タイ人が不健康になるのは、「辛い料理」が原因なのではなく…
「辛い料理」とは全く別の問題で、高カロリー/高脂質/運動不足などの、「生活習慣」が原因…ってことです。
生活習慣病がタイでも増えている件
それなのに、「子供に辛い料理を食べさせるのは良くないこと」と勘違いしたタイ人の親が、子供から辛い料理を遠ざけ、その代わりとして…
マクド○ルドやKF○などのファーストフードを、小さい頃から食べさせてしまう…ここに、大きな問題があります。
つまり、「健康」を理由に、辛いものを子供に食べさせず、代わりに、もっと「不健康」なものを、子供に与えているわけです。
そもそも、以前のタイは、みながカモシカのようなスラッと足をしていて、「世界一スタイルが良い国」なんて言われていたはずのに…
「ここ数年で、肥満が糖尿が急増」なんていう事自体、どう考えても「おかしい」んです。
やっぱり、先祖代々、何世代にもわたって食べ続けてきた地元の料理には…
それなりに「合理性」というものがあります。
極端な話、タイの農村で暮らしている人にとっては…
「新鮮な米と、魚と、虫と、野菜」を食べ続けるのが、一番理に適っているんです。
そうした良き遺産を、簡単に捨て去って、
ファーストフードのような、「常習性・中毒性」のあるものを子供に食べさせ、糖尿病や肥満などの問題で、頭を抱える…
現代のタイ人はやはり、「どこか勘違いをしている」と、言わざるを得ません。
まとめ
話が少し脱線してしまいましたが、今回の話をまとめると…
●「辛すぎて食べれません」と言いたいときは、「キンマイダイ」ではなく、「キンマイペン」と言う。
●味覚は、親から子に遺伝する。
●現代のタイ人が言う「キン・ペット・マイペン(辛いの食べれません)」は、ただの思い込みであることが多い。
●タイ人も、極東のどこかの国と同様、伝統食から離れてしまったことが、生活習慣病の要因の1つになっている。
…ということになります。
それではまた。