タイ語の自動翻訳アプリは、
「だいたい精度が低い」
「翻訳がおかしい」
というのが、定説になっています。
おそらくあなたも、実際にそのように感じたことがあるのではないでしょうか。
今回は、「タイ語の自動翻訳アプリの精度が低い理由」について、お話をしていこうと思います。
自動翻訳アプリは進化を続けている
近年、外国語の自動翻訳アプリの進化は目覚ましく、
英語ベースの翻訳なら、「ほぼ完ぺき」というぐらい、精度が上がっています。
実際のところ、
「文法的に正しい、
きれいな【英語】を、
日本語に直す」
「文法的に正しい、
きれいな【英語】を、
タイ語に直す」
という、英語ベースの作業なら、自動翻訳アプリの翻訳で、全く問題ありません。
タイ語ベースの自動翻訳は…
……と、これほどまでに、翻訳アプリは進化を続けているのに、
「タイ語ベースの翻訳」に関しては、かなり「お粗末」な印象があります。
「タイ語ベース」とはつまり、
「タイ語から、英語に直す」
「タイ語から、日本語に直す」
という風に、タイ語をもとに、他の言語に翻訳する、ということです。
こうした、タイ語ベースの翻訳の場合、
ほぼ100%の確率で、「おかしな翻訳」が出てきます。
タイ語翻訳アプリの精度が低い理由
ではなぜ、こんなことになってしまうのでしょうか。
これは、「開発者の努力不足」ではありません。
開発者はおそらく、日々、素晴らしい翻訳アプリの開発に心血を注いでいるはずなのです。
それなのに、どれほどの現代技術を駆使しても、
タイ語を外国語に自動翻訳するアプリの開発自体が、「非常に難しい」と言える理由があります。
私は、3つの理由を考えています。
①省略が多すぎる
1つめは、タイ語の口語は、省略が多すぎることです。
会話では、まず9割がた、主語を言いません。
例えば、
「マー・マイ?(来る?)」というタイ語文があったとして…
この文の主語は、私なのか、あなたなのか、彼なのか、
文脈を見ないことには、さっぱり分かりません。
もうこの時点で、英語圏への翻訳は無理です。
英語では、どんな文にも「主語」が付いていますから、
「主語のない文を、主語のある文に変換する」というプロセスの中で、必ず「誤訳」が生じてしまいます。
もしも仮に、こういう誤訳を防ごうと思ったら、
会話全体から主語を自動で検索するような、「文脈読み取り機能」とかがないと、無理なんです。
②書き言葉と話し言葉が違いすぎる
また、書き言葉と話し言葉の違いもあります。
辞書に載っているのは、「書き言葉」です。
一方、LINEメッセージでは多くの場合、「話し言葉」で文章を書きます。
こうなると、「辞書に載っていない言葉」が自動翻訳にかけられることになりますから、
機械による翻訳は「ほぼ不可能」です。
たとえば、
「そうなんですか?」という時、タイ語では、正しくは
チャイ・ループラオ
と言います。
でも、これは正式な表現ですから、ふだんの会話では、簡略化されます。
「そうなんですか?」を口語的に縮めて言うと、
チャイ・ループラオ
↓
チャイ・ルッパオ
↓
チャイ・パ
と、どんどん、縮まっていきます。
こんなの、自動翻訳で訳せるはずがありません。
なぜなら、そんなタイ語の文は、辞書には一切載っていないからです。
③つづりもメチャクチャ
また、タイ人の多くは、特にLINEやSNSなどでは、綴りがけっこう「適当」です。
例えば、
「誰といるの?」は、正式なタイ語では、
อยู่ กับ ใคร
ユゥ・ガップ・クライ?
と言います。
でも、LINEやSNSの会話とかだと、
ยุ กะ คัย
ユ・ガ・カイ
みたいに、単語の綴り1つ1つが、かなり崩れているというか、簡略化が徹底されています。
メチャクチャなつづりですが、受け手には何が言いたいのかがきちんと伝わるので、タイ人同士なら問題はないわけです。
でも、こんなの、もはや暗号ですから、
自動翻訳アプリが意味を検知できるはずがない、ということなのです。
対処法は?
なので、タイ人との会話で、自動翻訳アプリを使用する際は、こういう事情を知ったうえで、
あらかじめ、相手のタイ人に、対策を伝えておく必要があります。
対策とは、上記の逆。
つまり…
②話し言葉で書かない。書き言葉を書かせる
③変なつづりを書かない。正しいつづりで書かせる
…などの方法が、有効です。
これらを相手のタイ人に伝えておいて、きちんとしたタイ語文を書いてもらえば、
元の文がちゃんと「主語+動詞+目的語」になっていて、つづりも正しい、ということになります。
そして、これを自動翻訳すれば、そこそこ正しい翻訳が得られる、というわけです。
しかし、タイではそもそも、
「正しいタイ語を書ける層は、多数派ではない」
というジレンマがあります。
こうして、LINEで正しくないタイ語が送られてきて、自動翻訳でおかしな文章になる…というわけです。
まとめ
いかがでしたか。
おかげさまで、当サイトで実施している、
「LINE翻訳サービス」は、多くの方にご利用をいただいております。
こうした「手動」の翻訳サービスに需要があるのは、とりもなおさず、自動翻訳アプリのタイ語には限界があるからです。
タイ語の自動翻訳アプリは、おそらく、あと30年は、精度が上がらないと思います。
それは、上記でご紹介したような、「タイ語文法や正書法、そのものの問題」も、さることながら…
「そもそもタイ人の多くが、正しいタイ語を書こうと思っていないから」
です。
日本人の場合、たとえ親しい仲であっても、誤字脱字とか、文の響きとかにも、多少は気を遣いますよね。
でも、
タイ人は、そういう点をあんまり気にしません。
たとえ、誤字脱字があっても、めちゃくちゃな文法や綴りであっても…
書き終わったらすぐ、推敲もせずに平気で送信してきます。
しかも、これに加え、
そもそもタイには、「学校できちんと勉強したことがない」という層も多いです。
そういう人は、タイ国民でありながら、タイ語単語の正しい綴りを知らなかったりしますから、
おかしな綴りのタイ語文を送信してきます。
そんなの、機械が自動で翻訳できるわけがないですよね。
あと30年もすれば、話し言葉や方言のデータベース、定期的な流行語のアップデートなども開発されていくことでしょう。
(というか、そのころには、LINEなんて使わなくても、体内に埋め込まれたICチップを通じて、送受信が可能になる時代が来ているかも……??)
そうなれば、自動翻訳の精度も上がっていくとは思いますが、現時点では、かなり高いハードルです。
そういう事情で、
「自動翻訳アプリの、タイ語ベースの翻訳は、なかなかビシッと正しい翻訳文を出してくれない」
というわけです。
(注:今回の記事は、2018年の時点で書いたものなので、ひょっとしたら、「今はもっと精度は上がっている!」という反論があるかもしれません。
「当時の自動翻訳は非常にお粗末だった」という感覚でお読みください)