2018年頃を境に、タイの外食産業では、「チーズ」が、流行傾向にあります。
今回は、
「なぜこんなにも、タイでチーズがブームになっているのか」
という点について、お話をしていきます。
チーズパン多すぎ?
タイのセブンイレブンの、「惣菜パン」のコーナーに行くと…
およそ7割以上の品目に、チーズが使われていることが分かります。
ハムチーズサンドイッチ、
チーズを練りこんだフォカッチャパン、
チーズたっぷりのピザパン
…などなどです。
セブンイレブンで、あまりにも多くの品目にチーズが使われているために、初めてタイへ来た人は…
「えっ、タイ人って、こんなにチーズが好きなの?」
と、ビックリしてしまうこともしばしばです。
チーズ味の食品が流行
また、セブンイレブンだけではありません。
お菓子屋さんへ行っても、「チーズ味」のお菓子の種類は、2,016年頃を境に、急激に増えています。
例えば…
これまでは塩味とバーベキュー味しかなかったスナック菓子に、新たに「チーズ味」が登場する…
といった具合です。
また、タイの名物である、「屋台街」のメニューを見ても…
都市部では、揚げたてのフライドポテトの上にスライスチーズを乗せる、「チーズフレンチフライ」なるメニューも登場し、
じわじわと、流行の兆しを見せています。
「やよい軒」でも?
また、タイの日本食レストランの大手チェーン店である「やよい軒」では…
なんと、2018年春、「チーズ入り餃子」という、期間限定メニューが発売されました。
特に、「やよい軒」というところは、
「タイの流行をいち早く取り入れてメニュー化する」という点に定評がありますから…
「やよい軒でチーズ餃子が発売された」
というニュースは、すなわち、「タイ人の間でチーズが流行している証」と判断して、おおむね間違いありません。
タイ人はチーズが好き?
…と、こうした現象を見ると、
「なるほど、タイ人は、チーズが好きなんだな」
と思ってしまいがちなのですが、これはあくまでも、日本人の発想です。
タイの実態は、「好き」というのとは、少し違います。
「タイでチーズが流行する」という現象は、「チーズ好きなタイ人が増えた」というよりは、むしろ…
「タイ人がチーズというものを覚えて、それが広く認知されるようになった」
と言った方が、正確です。
チーズが認知されるようになった
つまり、これまでからも、チーズはタイにもあったのですが、庶民レベルでは、あまり一般的な食材ではなかったんです。
ほんの数年前まで、タイの一般庶民は、「チーズ」というものを、食べたことがありませんでした。
チーズは、「どこか遠い外国の食材で、俺たちタイ人には関係ない」と、考えていたフシがあります。
現に、マクドナルドは20世紀の頃からタイにもありましたから、チーズバーガーも、もちろん売られていたんですが…
少なくとも、当時のタイでは、積極的に「チーズを食べたい」と考えるタイ人は、かなり少数派でした。
日本を知るタイ人が増えた
しかし、2017年頃から、タイのセブンイレブンで、「チーズ入りの惣菜パン」というものが販売され始めます。
この時は、ちょうど、タイ人の日本行きの観光ビザが免除になったことで、日本へ渡航に行くタイ人が増えていた頃でした。
日本に渡航歴のあるタイ人の多くは、口を揃えて、次のように言います。
「日本のセブンイレブンの食品は、レベルが高く、しかも安かった」
「日本のセブンイレブンで何を買って食べても、タイでは高級外資系スーパーでしか買えないような、美味しいものばかりだった」と。
このタイミングで、タイのセブンイレブンは、チーズ入りパンのラインナップを強化します。
タイのセブンイレブンで「チーズ入り惣菜パン」を売っているのを見たタイ人は…
「あっ、このタイプのパンは、日本のセブンイレブンで見たことあるぞ!」
と、考えます。
日本で売っているもの=良いもの
現在のタイでは、「日本で売っているもの=良いもの」という認識ですから、
日本と同じような惣菜パンが、タイのセブンイレブンでも、どんどん発売されるようになります。
今回のテーマである「チーズ入り惣菜パン」は、その典型です。
また、チーズ以外にも…
先日ご紹介した「小倉マーガリン」や「蒸しパン」、「ティラミス」などは、すべて日本のセブンイレブンの模倣です。
チーズブームは日本発?
こうして、タイでも「チーズ味」というものが認知されていきます。
現在、タイの外食・食品産業は、こぞって、チーズ味の商品開発に努め…
タイの一般の消費者にとっては、チーズはいわば「外国(日本)の味覚」として、流行するようになった…というわけです。
やよい軒の「チーズ入り餃子」なんていうのは、まさにその象徴だと言えます。
タイのチーズブームが、フランスやイタリアを模倣して起こったのではなく…
「日本ブームの一環として、チーズが流行る」
というのが、いかにもタイらしいところです。
しばらくチーズは売れる?
そのため、あと数年は、チーズを絡めた食品を売り出せば、タイの都市部では、そこそこヒットするかもしれません。
現に、地方の市場レベルでも、すでに「チーズ入り手作りパン」や「チーズ入り惣菜」なんてものが登場しつつありますから、
このブームは、もうしばらく続くと思われます。
…以上が、タイにおけるチーズブームの経緯です。
タイの流行のメカニズム
タイで、何か食品のブームが起きる時は、日本の場合と少し意味が違います。
日本の場合、「元々あったものが見直されて流行する」ということも多いですよね。
例えば、最近流行った「アップルソース」や「えごま油」などは、その典型です。
「アップルソース」も「えごま油」も、流行する前から、日本のスーパーでは普通に売っていました。
でも日本では、
元々誰も見向きもしなかったものが、誰か有名人がテレビで「アップルソースが健康にいい」と言ったことによって、勝手にブームになっていくようなところがあります。
しかし、タイの場合は、
「既知のものが流行する」というケースはあまりなく…
「新しくタイ人に認知されたものが、急速に大ヒットする」
というケースが多いです。
つまり、
これまでタイの一般庶民は、チーズというものを、買ったことも食べたこともなかったんです。
でも、近年の日本ブームによって、タイで急速にチーズが認知されるようになり、
それと同時に、チーズブームが始まった、ということです。
タイで次に流行るものは?
逆に言えば…
タイ人がこれまで知らなかったものを売り出せば、タイでは大きなビジネスチャンスにつながる可能性がある、
と言えます。
ワサビしかり、
焼き海苔しかり、
抹茶しかり…
そして今回の、チーズしかりです。
これらがすべて、「日本の食生活を模倣したもの」というのも、興味深いですよね。
また、タイで流行ったものは、数年以内に、隣国のラオス・ミャンマー・カンボジアでもブームになる、という法則もありますから、
その潜在能力は計り知れません。
ポイントは、
「日本に普通にあって、タイ人がまだ知らないもの」です。
チーズの次は、一体、タイで何が流行るんでしょうか?
これを予測してみるのも、面白いかもしれません。
今回は、タイ・東南アジアにおける、「食品の流行」に関するお話でした。